心臓弁膜症をはじめとする構造的心疾患の治療において世界100カ国以上で用いられる医療技術を提供するエドワーズライフサイエンス。外資系製薬企業などでの豊富な経験をもとに、患者さん中心の医療イノベーションのさらなる実現に取り組む同社日本法人代表執行役員社長の大櫛美由紀に話を聞いた。
「患者さんへの貢献」を広げる
「心臓弁膜症」は、進行すると心不全に至る可能性がある危険な病気だ。その病気に対して、治療法の革新に挑んでいるのが、エドワーズライフサイエンスだ。同社は、心臓弁膜症を中心に構造的心疾患の治療において世界100カ国以上で用いられる医療技術を創出する世界的な企業である。
創業者のマイルズ・ローウェル・エドワーズは、1960年に、心臓外科医であるアルバート・スター博士との共同開発により、心臓のなかで重要な役割を果たす人工心臓弁の製品化に成功した。以来、エドワーズは患者の人生の質をもっと高めたいと考え続け、改良を重ねてきた。2000年代に入ってからは、開胸せずにカテーテルを用いて心臓弁を留置する「経カテーテル大動脈弁治療(TAVI)」を実用化し、世界中で多くの方の治療に使用されている。
また、既存の製品に対する技術改良の取り組みに加え、僧帽弁や三尖弁に対する治療技術開発を含む、構造的心疾患および心不全の領域へも拡大し、この分野における役割をさらに高めようと取り組んでいる。
その日本法人をリードするのが、代表執行役員社長の大櫛美由紀だ。現場の声を直接聞き、深堀りを続けることにより、患者中心の医療イノベーションの前進に取り組んでいる。
「オフィスでプレゼンを聞いて学ぶだけでなく、営業やクリニカルスペシャリスト、医師と実際に会うことが重要です。治療を必要としている、より多くの患者さんに私たちの技術を少しでも早くお届けするために何をすれば良いか。その解は、基本的に現場にあると信じています」

大櫛は、大手コンサルティングファームで製薬業界を担当したことが契機となりキャリアをシフトし、その後は外資系大手製薬企業などで要職を務めてきた。
「高齢者のなかには、息切れや動悸がするようになっても、『年のせいだから』と考えて、医療機関を受診されない方がいらっしゃいます。また、診断されても適切な治療を受けていないために、急に症状が悪化して心不全に至り、最悪の場合亡くなられる方もいらっしゃると聞いています。そのような状況を少しでも減らすために、何らかの症状がある方の循環器専門医への適切なタイミングでの紹介と、その専門医への定期的な受診と治療の検討が大切だと私たちは考えています。健康寿命の延伸のため、治療を必要としている患者さんが治療にアクセスできるように私たちに何ができるか、社内外の関係者と深掘りしてディスカッションを重ね、活動を進めています」
1968年の日本法人設立以来、エドワーズライフサイエンスの製品は、医療現場において多くの日本の患者の治療に活用されてきた。
「部門間のコミュニケーションをさらに強化し、業務の効率化を進めています。製品が開発された後、病院で患者さんの治療に使われるまでには、さまざまなプロセスがあります。これらすべてのプロセスを迅速に、そして正確に行うことで、フィールドの社員は医療従事者の皆さんや患者さんのための時間をより多く確保でき、安全かつ適正に我々の技術が使われることが可能になります。また、より多くの患者さんのニーズに応えるべく、できるだけ早く、患者さんの期待に応える製品を届けるためには、事業部を超えたディスカッションが必要です」
今年1月、全社員が一堂に会し、社員同士がより深く知り合い、つながることを目的とした会議が開催された。顔を合わせた会議を通して、各部門にどんな社員がいて、それぞれがどんな意図や考えをもって働いているかがわかり、社員からは好評だったという。
エドワーズで働くことを誇りに思ってほしい—。大櫛が就任直後から常に社員に向けて伝えていることだ。
「社員は、患者さんのために貢献を続けています。それをすべての社員がもっと肌で感じ取り、誇りに思い、広げていってほしいと願っています。全世界で、エドワーズのイノベーションと社会への貢献をもっと知っていただけるように、私自身も発信していきたいと考えています」
高齢者の誰もが生き生きと暮らせる社会を
エドワーズライフサイエンスが最も大切にしている全社員共通の行動指針は、「患者さん第一」だ。
「すべての意思決定が患者さん第一に基づいていることは、入社してすぐに感じました。ある大きなプロジェクトを継続するか否かの議論がありました。一般的な会社であれば合理性をとって撤退を選んだと思われる案件でしたが、アメリカ本社からの問いかけは、『患者さん目線でどうか』で始まりました。患者さんの視点で考えて議論を尽くし、プロジェクト継続を決めたのです」
その考えは世界中のすべての社員に根付いており、常に患者の声を聞く機会を大切にしている。そのひとつが、エドワーズの製品を使っている患者を本社に招き、社員が直接患者から話を聞く会、Patient Experienceだ。
「患者さんご本人から、どのような症状が出て、どのような気持ちで治療を受け、今はどんな人生を生きているかを、社員一同、直接聞かせていただくことは、私にとってもはじめての経験でした。『エドワーズの製品に出会えたからこそ今がある』といった言葉をいただき、当社の製品が患者さんの人生にインパクトを与えていることを改めて実感し、かけがいのない日常を取り戻すお手伝いができることを心から誇らしく思いました」
「また、診断から治療後の生活までを描いたドキュメンタリー形式の動画の制作も、世界各地の拠点で行われています。ミーティングの終わりなどに社員全員で視聴することで、製品のその先にいらっしゃる患者さんをより身近に感じ、さらなる技術の向上に寄与することを再確認する機会となっています」
大櫛が思い描くのは、高齢者が生き生きと暮らせる社会だ。
「心臓弁膜症は高齢の方に多く見られる疾患ですが、息切れなどにより活動量が低下しがちです。自分らしい生活を続けるための治療という選択肢があることを、理解していただけるように情報を発信し続けることが大切です。医療従事者の皆様、政府や行政関係者の方々、そしてヘルスケア業界で患者さんへのミッションを共有している他医療機器メーカーや製薬会社の仲間とも連携して、高齢者の誰もが生き生きと暮らせる社会をつくっていきたい。本当に社会に役立つための活動を考えて、実行していきたいです」
エドワーズライフサイエンス
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おおぐし・みゆき◎エドワーズライフサイエンス代表執行役員社長。マッキンゼー・アンド・カンパニーにて製薬・ヘルスケア企業へのコンサルティング業務に従事した後、バクスターで事業部長など戦略に携わるポジションを歴任。2019年からはヤンセンファーマにて、ニューロサイエンス事業本部本部長、マーケットアクセス部門長、コマーシャル・アフェアーズ部門長を兼務し、21年からは台湾にてヤンセンファーマの法人代表を務めた。24年5月より現職。