北米

2025.06.18 09:00

米滞在のウクライナ避難民19万人、強制送還の危機ひとまず回避 だが安心するのはまだ早い

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ロシアの侵攻を受けて米国に避難してきたウクライナ人数十万人の一時的な在留資格がトランプ政権の移民政策によって脅かされている問題で、裁判所が政府の対応を違憲と判断し、18万7000人に待望の救済がもたらされた。入国審査が凍結されたため、避難民の多くが就労はおろか在留申請すらできないまま、数カ月間にわたり不安定な立場に置かれていた。

連邦地裁の判決を受けて政府が手続きを再開し、人道的な臨時入国許可制度に基づいて米国に仮入国したウクライナの人々は、就労許可証や亡命認定、永住を視野にいれた移民ビザなどの申請が再びできるようになった。

これ自体は歓迎すべきニュースではあるものの、背景事情を考えると暗澹たる気持ちになる。米国は1994年にウクライナの独立を守ると約束したにもかかわらず、ここ数カ月間で複数のウクライナ人をロシアの攻撃下にある祖国に強制送還しようとしている。そればかりかトランプ政権は、ロシアに主権を侵害されている被害者としてウクライナを支援するのではなく、侵略者であるロシアを全面的に支持しつつあるのだ。

戦禍と虐殺の中で破られた約束

ウクライナの状況は今なお悲惨だ。ブチャやイルピンなど各地から報告が上がった戦争犯罪、強姦、拷問、集団虐殺の被害実態は世界に衝撃を与えたが、ロシア軍は現在もウクライナの領土の一部を占領しており、民間人、とりわけ女性と子どもの犠牲者は日々増え続けている。

しかし、戦争が長引く中、米国政府は人道的観点に基づく臨時制度を通じて国内に受け入れたウクライナ人の滞在資格を剥奪し、強制送還しようとしている。これには、ウクライナの人々に安全な避難場所を提供するため2022年に導入された「ウクライナのための団結(U4U)」プログラム(米国市民による資金援助を条件に入国を認める制度)の対象者も含まれる。

トランプ政権のこの動きに、ウクライナ避難民や支援者の多くは裏切られたとの思いを抱いている。というのも米国は、1994年に署名した「ブダペスト覚書」において英国、ロシアと共に、ウクライナの独立と領土保全を尊重すると約束しているからだ。

ウクライナはこの約束と引き換えに、世界第3位の核保有国の立場を放棄した。ウクライナが放棄した核兵器の引き渡しを受けたロシアは、この協定に明白に違反している。一方、米国もまたウクライナ人の期待を裏切っており、空爆や侵略こそ行っていないものの、移民政策によって戦禍を逃れてきた人々を苦しめていると批判されている。

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翻訳・編集=荻原藤緒

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