5月27日から29日、ビットコインカンファレンス「Bitcoin 2025」が米ラスベガスで開催され、過去最高の来場者数となる3万5000人が詰めかけた。会場となった豪華ホテル『ザ・ベネチアン』は、ネバダ砂漠に作られた偽の宮殿で、ここ最近の暗号資産業界を象徴する華やかで成金趣味の極みを思わせる雰囲気を漂わせている。
しかし、その由来を知れば、さらに驚くだろう。かつてこの手のイベントは、個人の自由とプライバシーは強力な暗号技術で守るべきという「サイファーパンク」の集いのひとつとして始まったという。政府や企業から相手にされることはないニッチな会合(訳注:熱心な技術者向けの読書会、特定の推しキャラに絞った小規模な同人イベントのイメージ)だったはずが、今や完全に様変わりしてしまったのだ。
「約束は果たされた」──ヴァンス副大統領、成果を誇示
今回このイベントは、「史上最大の1日あたりのビットコイン決済額」というギネス世界記録の達成も報告した。ビットコインの価格は、開催の直前に11万1000ドル(約1598万4000円。1ドル=144円換算)に到達したが、史上最高値の更新がもはや当たり前となった市場では、祝福の声も控えめだった。
昨年ナッシュビルで開かれた同イベントでは、ドナルド・トランプが米国を「地球上の暗号資産の首都」と呼び、「世界のビットコイン超大国」にすると宣言した。今年のイベントは、いわばそのプルーフ・オブ・ワーク(Proof of Work。ビットコインの合意形成アルゴリズム)のようなものだった。2024年のイベントは「複雑かつ膨大な仕事(Work)に取りかかる」という宣言で、2025年は「仕事を完了したという証明(Proof)」になぞらえられる。
トランプの側近であるJ.D.ヴァンス副大統領と、暗号資産およびAI特命官のデービッド・サックスがメイン会場のステージに登壇し、成果をアピールした。米証券取引委員会(SEC)が暗号資産に仕掛けた戦争は終結し、ゲーリー・ゲンスラー委員長は退任した。また、重要な暗号資産関連法案は議会で前進し、国家のビットコイン準備金構想も進行中だ。
ダークウェブ上の闇サイト、シルクロード(Silk Road)創設者・運営者のロス・ウルブリヒトは終身刑を宣告されていたが、トランプ米大統領の恩赦によって2025年1月に釈放された。
名だたる金融機関が、次々と暗号資産部門を再設置し、上場企業を含む多数の大手企業が、財務戦略として暗号資産の保有に乗り出している。「公約は果たされた」とトランプ陣営は誇らしげに述べている。
「私はここではっきりと宣言する。トランプ大統領と共に、暗号資産はついにホワイトハウスに力強い擁護者と盟友を得た。われわれは、規制や官僚主義、そして法による妨害を排除することを最優先に掲げる」と、ヴァンスは午前9時の基調講演で高らかに語った(交通渋滞を見越して開場は午前5時半だった)。
After four years of mistreatment and outright hostility from Democrat regulators, there's a new sheriff in town.
— JD Vance (@JDVance) May 28, 2025
With President Trump, crypto finally has a champion and an ally in the White House. pic.twitter.com/WJPJJFUESX
ウィンクルボス兄弟とのパネルディスカッションでは、サックスは聴衆に「業界が次に望むものは何か?」と問いかけた。最も大きな声で返ってきたのは「キャピタルゲイン課税の撤廃」(資産譲渡益への課税撤廃)という答えだった。キャメロン・ウィンクルボスは「米国政府が積極的にビットコインを買い始めてくれれば、より一層素晴らしい」と付け加えた。
まるで共和党全国大会、皮肉に満ちた政治ショー
もちろん、ここには強烈な皮肉がある。ビットコインは本来政治から自由で、分散型の純粋な存在であり、伝統的な金融システムや国家による通貨の独占に中指を立てるものだった。しかし、このカンファレンスは共和党全国大会のスピンオフにも見えるもので、エリック・トランプやドナルド・トランプ・ジュニアの演説もあり、5年前にはこの資産に触れようともしなかった政治家への喝采で盛況だった。トランプ自身も、2021年にはビットコインを「詐欺だ」と呼んでいたが、今や全力でブームに乗っている。
トランプ一族を潤す暗号資産事業
フォーブスの試算によれば、暗号資産はこの1年でトランプの資産を約10億ドル(約1440億円)相当も押し上げている。「彼のデジタル資産の価値は、マール・ア・ラーゴやトランプタワーといった不動産の合計価値を上回る」と、経済ジャーナリストでフォーブスのシニア・エディターであるダン・アレクサンダーは記している。
このカンファレンスの1週間前、トランプは自身のミームコインの最大購入者たちをホワイトハウスに招いて夕食会を開催した。彼の家族は、分散型金融(DeFi)に特化した「ワールド・リバティ・ファイナンシャル(WLF)」やマイニング企業の「アメリカン・ビットコイン」、さらには今回のイベント中に25億ドル(約3600億円)のビットコインへの投資を発表した「トランプ・メディア」など、一連の暗号資産事業に積極的に関与している。