宇宙

2025.06.06 14:00

日本のispaceの月輸送機が通信途絶、管制官が指摘した月着陸前に発生した不都合とは?

レジリエンスの着陸の成否を見守るミッションコントロールセンターの管制官たち(c)ispace

レジリエンスの着陸の成否を見守るミッションコントロールセンターの管制官たち(c)ispace

日本時間6月6日未明、宇宙スタートアップであるispace(アイスペース)が、無人月輸送機「レジリエンス」による月面着陸に挑戦した。しかし、予定時間の午前4時17分を過ぎても着陸が確認されず、管制スタッフによる確認作業が続けられるなか、YouTubeのライブ配信は終了した。

高度約100kmの月周回軌道上(円軌道)にあったレジリエンスは、6月6日午前3時26分、その軌道から離脱するための減速噴射を開始し、予定通りのシーケンスで高度を下げていった。しかし、着陸予定直前の4時16分ごろ、ミッションコントロールセンターの管制官が、最終着陸態勢を意味する「ファイナルアプローチ開始」を告げると同時に、機体高度を示すテレメトリ(遠隔測定装置)が一瞬「マイナス223m」を表示。それを最後に高度と速度のテレメトリがブランク(空白)状態になった。

その直後に管制官が、「ピッチングアップ」(機体姿勢を垂直に立てる操作)をアナウンスしたが、以後、機体との交信は確立されなかった。マイナス223mという表示は、着陸地点の地表高度にもよるため、それがすぐさま墜落を意味するものではない。ただし、テレメトリの数値を見る限りは、高度600mに達したあたりから急激に降下したようにも思えた。

ライブ配信されたレジリエンスのテレメトリ画面。右上の丸い部分が機速と高度を示す(c)ispace
ライブ配信されたレジリエンスのテレメトリ画面。右上の丸い部分が機速と高度を示す(c)ispace

その後、通信途絶から数時間後にプレスカンファレンスが開催された。そこでispaceの氏家亮CTOは、管制室のテレメトリで確認されたレジリエンスの最終高度は192mであり、その降下速度が想定よりも速かったと報告。エンジンや燃料系統を含む推進系や、降下時の機体姿勢に大きな問題は感じられず、機体高度を測距するレーザーレンジファインダーという装置からのデータ反映が、遅れた可能性があることが指摘した。

ただし、機速が速すぎたために測距が遅れたのか、レーザーレンジファインダーに不都合があったために減速が遅れたのか、その因果関係は現時点ではわからず、今後の分析で明らかにしたいと語った。

達成できなかった「日本初の民間機」

レジリエンスは1月15日にケネディ宇宙センター(米国・フロリダ州)から打ち上げられ、5月7日に月周回軌道(楕円軌道)に入り、5月28日には高度約100kmの円軌道に到達していた。そして6月6日午前4時17分、「氷の海」(または「寒さの海」)に着陸する予定だった。

2023年のミッション1では同じく「氷の海」に着陸を試みたが、想定外の崖(標高5km)に遭遇したことにより、システムが高度を誤認識して通信が途絶えた。しかし、そのポイントから西に約950km離れた今回の着陸地点は、クレーターが少なく平野であることから、高い確率での成功が見込まれていた。

高度約100kmの円軌道に入ったレジリエンスが5月16日に撮影。この時点での機速は5800km、秒速約1.6km(c)ispace
高度約100kmの円軌道に入ったレジリエンスが5月16日に撮影。この時点での機速は5800km、秒速約1.6km(c)ispace

レジリエンスが今回の着陸に成功すれば、月面着陸に成功した日本初の「民間機」になるはずだった。同時に、「氷の海」に着陸した史上初の宇宙機として記録されるはずでもあった。これまでに月面着陸に成功した日本の探査機は、公的機関であるJAXAの「SLIM」(2024年1月着陸)の1機のみ。民間機としては米国の「ノバC」」(IM社、2024年2月着陸)と「ブルーゴースト」(ファイアフライ社、2025年3月着陸)の2機だけが成功している。

次ページ > 2027年、ispace「月の裏側」に挑戦する

編集=安井克至

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事