ヘルスケア

2025.06.06 11:00

遺伝子治療で遺伝性疾患に挑む、乳児の命を救う医療のパラダイムシフト

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私たちはいま初めて、遺伝性疾患の経過を生涯にわたって根本的に変え得る治療法を目の当たりにしている。最新の画期的成果は乳児(生後28日以上から1歳未満)に対する遺伝子治療である。『ネイチャー・メディシン』(Nature Medicine)に報告された症例では、致死的な遺伝性てんかん症候群を抱える早産児が実験的治療を受けた結果、生命を脅かす発作が60%減少した。

本稿は、出生前および出生直後に遺伝的欠損を修復する可能性を論じる全2回シリーズの第1回だ。本稿では新生児(出生から生後28日未満)の治療に焦点を当て、第2回では子どもがまだ子宮内にいる胎児期での新しい応用を取り上げる。

遺伝性疾患の検出──どこまで早期に分かるか

今日、医師は多くの遺伝的変化を症状が現れるはるか前に発見できる。妊娠中には母体血を用いる非侵襲的検査が、新生児ではかかとから採取したわずかな血液が利用される。これらの検体は高性能の遺伝子解析ツールで分析され、数百種類の遺伝性疾患の兆候を迅速かつ正確に検索できる。

人工知能(AI)の助けにより、医師は数百の疾患を短時間で高精度にスクリーニングできるようになり、早期発見はかつてないほど身近になった。筆者の新刊では、こうした技術革新が子どもと大人の人生をいかに変えているかを詳述している。ある家族にとって、この早期発見は人生を大きく左右している。

例えば、冒頭で挙げた『ネイチャー・メディシン』で報告された、生後わずか数日で発作を起こし始めた新生児の症例だ。医療チームはゲノムシーケンシング(ゲノム配列解析)を用いてDNA変異を迅速に探索し、症状を説明しうる変化を特定した。その結果、重度のてんかんを引き起こすことで知られる遺伝子の変異が見つかった。

この変異が引き起こす持続的な脳内の電気的混乱は、脳の発達を阻害する。発作は運動能力、言語、社会的相互作用の遅延や退行を招き、さらに多くの患児は視覚追跡や聴覚反応といった感覚機能まで失う。変異の発見により、次の段階である標的治療(特定の遺伝子やタンパク質の働きを狙い撃ちにする治療法)へ迅速に移行できた。

乳児の遺伝性疾患に対する標的治療

懸念される遺伝子変化が見つかった際、その根本原因に対処する手段はこれまでになく充実している。『ネイチャー・メディシン』の症例では、欠陥遺伝子を「沈静化」して発作を減らすことを狙った革新的治療が用いられた。治療を受けた早産児は、1時間あたり20〜25回だった発作が5〜7回へと激減した。

現在のデータによれば、薬剤濃度の低下に伴い効果は4〜6週間で薄れるため再投与が必要である。20カ月間に19回の投与が行われたが、重篤な副作用は報告されなかった。複数の動物モデルでも有効性を示す強力な臨床エビデンスが存在する一方、課題も残る。

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翻訳=酒匂寛

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