韓国はドナルド・トランプ米大統領の貿易戦争のあおりで、かなりの規模を誇る開かれた経済に大きな打撃を受けているにもかかわらず、意外にも近い将来の見通しを楽観しているようだ。
とはいえ、5月の消費者信頼感の大幅な改善は、現在の状況に対する理屈に合わない反応というわけではない。人口5100万人のこの国では、6月3日の大統領選挙が近づくにつれて、やっとトンネルの先に光が見えてきたと感じている人が多いのだ。この選挙は、昨年12月3日に当時の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が「非常戒厳」を宣言して以来、半年にわたる権力空白にようやく終止符を打つことになる。
波乱に満ちた韓国政治の歴史に照らしても、尹の行動は常軌を逸していた。尹はその結果、大統領職を失うことになった。当然だ。彼は弾劾され、憲法裁判所によって罷免された。6月3日の選挙は、韓国が新たなページを開くチャンスだ。6月以降どうなるかについて、韓国の有権者がポジティブな見方をしている背景にはこうした事情がある。
政治状況が落ち着いてくるという楽観論、そして貿易戦争は最悪期を脱したとの期待から、韓国の5月の消費者心理指数は101.8と前月から8ポイント上昇し、7カ月ぶりの高さとなった。
韓国の次期政権にはめったにないほど大きな期待が寄せられている。世論調査では、最大野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)前代表がトップを走っている。李は2022年の選挙で尹にごくわずかな差で敗れていた。与党「国民の力」の金文洙(キム・ムンス)前雇用労働相が追っている。
ただ、仮に李が勝利しても、彼はごく短い「ハネムーン期間」すら与えられないだろう。次期政権は、経済の安定化、高止まりしている不動産価格や家計債務の抑制、トランプの貿易戦争による付随被害を抑える方策の取りまとめに早急に取り組まないといけない。
工場労働者出身の李は庶民的な人物とされる。彼は「真の大韓民国」を築くと約束し、所得の向上や、より公正な社会の実現を訴えている。だが、李にとって真の課題は、過去20年あまり、韓国の歴代大統領が掲げてきた公約を果たすことではないか。企業が公平に競争できる環境を整えるという公約である。