藤吉:サバイバルの話なんですね。日本の製造業の規模が小さすぎるという問題は以前から指摘されてましたが、あまり変化できなかった理由はどこにあるんでしょうか。
阿部:系列に入っていれば、基本的には自分たちであまり考えなくてよかったんじゃないかな。出荷額でみれば、自動車って日本で最も規模が大きい産業ですが、そのわりにM&Aの件数はものすごく少ないんですよね。トヨタ系の部品メーカーがトヨタの意向を無視して、他と合併していけるかというと、やっぱりそれは難しい面がある。
水谷:もちろん系列には系列の良さもあって、縦に垂直統制されたグループの中で、部品各メーカーが部品を持ち寄って、それを高度にすり合わせていく技術というのは、日本の強みでもあったわけです。それに対して海外は部品メーカーが一つの車種のための専用品ではなく、標準品を作ろうとする。
また「モジュール型」といって、単なる部品ではなく例えばハンドル、メーター、インパネなどが一体となったコックピット系とか、ラジエーター、バンパー、ヘッドランプが一体となったフロントエンド系といったまとまりで納品しようとする。
標準品やモジュール型で納品すれば世界中の工場で同一品質・設計で車を作れるので、メガサプライヤーが大量に作ることで規模の経済性が効き、価格も安くなるというメリットがあるわけです。
藤吉:そういう意味ではトランプ関税なんかも、考えようによっては日本の自動車業界全体の構造を変えるチャンスとも言えますよね。
水谷:そう思います。とくに喫緊の課題は日本の小さな部品メーカーに投資余力がないことなんです。今後ガソリン車の需要が減っていくのは避けられないですが、例えばガソリンエンジンの部品を作っている会社の生産設備が古くなっていても、これを更新できるかといえば、なかなか難しいんです。
小さな会社にとっては社運をかけた投資になる可能性がありますから。躊躇しているうちに設備はどんどん古くなって生産性が落ちる悪循環に陥ってしまう。
阿部:実はそれって日本だけじゃなくて、世界中で起きている問題です。どこも単独で投資できる余力はなくなっているんですよね。だからうちのファンドがIJTTでやったことを見て、スパークスと一緒にやりたいという会社が結構来ているんです。
藤吉:製造業のバリュークリエーションが生まれそうですね。
阿部:系列の壁を超えて、効率性をインダストリー全体で見ていく動きが始まっている。そういう意味では、100年に一度の大変革の時代を迎えているのは確かです。

水谷光太 スパークス・アセット・マネジメント企業投資本部長
2016年入社。2020年からプライベートエクイティ(バイアウト)投資の運用業務および投資先のバリューアップに従事。それ以前は、主に上場株式の運用チームにて、投資先企業へ変革を促すエンゲージメント戦略を担当。企業経営者との継続的な対話に加え、バランスシートの改善や社外取締役選任にむけた株主提案活動などを主導。慶應義塾大学商学部卒業、英マンチェスター大学経済研究科修士課程修了。