「投資の巨人」バフェットとソロスの薫陶を受けた阿部修平代表が率いるスパークス・アセット・マネジメント。同社が運用する「日本モノづくり未来ファンド」責任者・水谷光太 企業投資本部長を交え、その投資実例から日本経済復活のヒントを探る。特別対談連載、2回目。
藤吉雅春(Forbes JAPAN編集長):スパークスが運用する「日本モノづくり未来ファンド」は日本の製造業、特に自動車産業に特化したファンドで、阿部さんが従来から強調する「失われた30年を乗り越えた日本の製造業は必ず復活する」という論を実践しているように感じています。
そのために、潜在力のある企業の価値を上げるためにTOB(公開買い付け)も積極的に行なっています。前回は自動車部品製造会社IJTTの例をお聞きしましたが、他にはどんな事例がありますか?
水谷:もう1社、投資事例を挙げますと、先日TOBが成立したばかりのシンニッタンという会社があります。この会社も同ファンドでTOBをしたIJTTと似ていて、自動車の足回りの鍛造品、例えばナックルやアクスルシャフトといった部品を作っています。
ただIJTTにおけるいすゞのような系列的な資本関係はなく、4社で構成されるグループなんですが、各社バラバラで経営の基礎的なインフラがかなり弱かった。
一方でシンニッタンは創業100年近い歴史があって、その間、蓄積された不動産や有価証券といった資産が豊富なため、しばしばアクティビストの標的にされてきました。
そうした中で、現社長が資産運用に頼る経営ではなく、「モノづくり」でしっかり生きていくというご決断をされました。そのために一度株を非公開化して、時間とお金をかけて企業の体力を強くしたいとのことで、パートナーとして弊社のファンドをご選定いただいたという経緯です。なので、今はファンドが株を100%保有するオーナーとなっています。
阿部:(シンニッタンの企業データを見ながら)「EV/EBITDA(企業価値/収益力:企業価値が、利益の何年分に相当するかを示す指標)」が低すぎない? 数字間違ってない?
水谷:これが間違ってないんです。要は非事業性資産を多く保有しているんです。そのせいで「EV/EBITDA」が極めて低くなっているんです。
水谷:日本にはまだこういう会社、結構あるんですよね。本業の営業利益は低いけど、事業に使わない不動産とかから賃貸料収入を得ている。ただシンニッタンの場合は、我々としてはそういう財務状況も考慮しながらも、本業の鍛造技術に着目して投資しました。
藤吉:先ほどアクティビストに狙われていたという話がありましたが、このファンドの狙いとして、高度な技術を持った日本企業を守るという面もあるんでしょうか。
阿部:それはすごくあります。そういう企業が生き残れるように体質改善をしながら企業価値を上げて、再上場させることを目指しています。
