トランプ米大統領一族が経営に関わる暗号資産の事業体「ワールド・リバティー・ファイナンシャル(WLF)」が発行したステーブルコインの「USD1」が5月21日、セーシェルに本拠を置く暗号資産取引所KuCoin(クーコイン)に上場した。
WLFは、トランプが3人の息子とともに2024年9月に立ち上げた分散型金融(DeFi)のプラットフォームで、トランプ一族はLLC(有限責任会社)を通じてその約60%を支配している。
米ドルに連動した価値を持つステーブルコインのUSD1は、21日にクーコインに上場したが、この取引所は、米国で無認可の資金送金業を運営していたとして、今年1月に罪を認め、約3億ドル(約429億円。1ドル=143円換算)の制裁金を支払い、少なくとも2年間米国市場から撤退することで合意していた。
WLFのステーブルコインを、クーコインに上場させるための交渉の中で、米国からの撤退を命じられたこの取引所に対して、トランプ側が何らかの便宜を図ろうとした証拠は確認されていない。しかし、他のトランプの事業の関係者は、トランプ政権から個人的な利益を得た事例がある。
たとえば、中国のブロックチェーン起業家のジャスティン・サンは、昨年11月のトランプの当選直後に、WLFのトークンに3000万ドル(約42億9000万円)を投資した。彼は、2023年3月に米証券取引委員会(SEC)から暗号資産関連の詐欺容疑で提訴されていたが、トランプの就任直後、同政権下のSECはサンに対する訴訟の一時停止を裁判所に申請し、「和解の可能性を探る」と述べていた。
WLFとクーコインの間の契約条件は明らかになっていない。「通常、双方は取引手数料で収益を得るが、一部の取引所は上場手数料を課したり、マーケットメイキングで追加の収益を上げたりすることもある」と暗号資産の研究者のモリー・ホワイトは説明している。
一方、「USD1がクーコインに上場したのは、特に驚きではない」と、ホワイトはフォーブスに語った。「このコインは、HTXやMEXCといった他の取引所にも上場しているが、これらはいずれも規制の関係で米国の顧客にサービスを提供していない」と彼は続けた。
トランプ・オーガニゼーションが1月に発表した倫理ホワイトペーパーには、「合衆国憲法は、大統領が私企業を所有・運営・管理することを禁じていない」と記されていた。ただし同社は、「利益相反の印象」を与えないようにするために、外部の倫理顧問を雇い、トランプは資産を信託に保持し、「会社を直接経営しない」と誓約していた。
トランプ・オーガニゼーションはその後、この顧問をトランプの指示で解任した。