香港ではここ最近、新規株式公開(IPO)市場が活況を取り戻し、投資家はそのチャンスに飛び乗る機会を狙っている。そんな中、ビリオネアの李沢楷(リチャード・リー)が率いる保険会社FWDグループは5月19日、香港取引所に上場申請を再提出したと発表した。
香港に本社を置くFWDが地元の取引所で上場申請を行うのは、これが4度目のことだ。同社は2022年2月と9月、さらに翌23年3月にも申請を行っていたが、いずれも市場環境の冷え込みを理由に撤回していた。
また、FWDの持株会社で同じくリーが支配権を握るPCGIインターミディエイトも21年6月に米証券取引委員会(SEC)に対し、30億ドル(約4300億円)規模のIPOに向けた報告書のドラフトを提出していた。しかし同社はその後、中国当局による海外上場への監視の強化を受けて、同年12月にこの計画を撤回した。
13年に設立されたFWDは香港やマカオ、日本、シンガポール、タイなど10の市場で約3000万人の顧客に保険サービスを提供している。同社の24年12月までの1年間の税引後純利益は2400万ドル(約34億4000万円)となり、初の通年黒字とプラスの営業キャッシュフローを達成した。また、同期間の総資産は前年から約2%増の537億ドル(約7兆7000億円)に達していた。
FWDの大株主のリーが率いる投資会社パシフィック・センチュリー・グループは、金融やテクノロジー、不動産分野に投資している。香港で最も裕福な人物である李嘉誠の息子であるリーは、2012年末にオランダの大手金融機関INGグループの香港やマカオ、タイでの保険・年金事業の買収を発表した後に、FWDを設立した。 FWDはその後、アジア各地での投資や買収を通じて事業を拡大し、スイスの再保険会社Swiss Re(スイス・リー)やシンガポールの政府系ファンドGIC、カナダ年金基金などからの出資を受け入れた。
リーはまた、パシフィック・センチュリーを通じてテクノロジー分野への投資も進めており、シンガポールに本拠を置く保険テクノロジー企業のBolttech(ボルトテック)やフィンテック企業のMoneyHero(マネーヒーロー)などの株式も保有している。 香港ではここ最近、地政学的な緊張や市場の不透明感にも関わらず、IPO市場が活気を取り戻している。20日には中国のビリオネア、曾毓群(ロビン・ゼン)が率いる電気自動車(EV)向けバッテリーで世界最大手の中国企業、CATL(寧徳時代新能源科技)が上場し、356億香港ドル(約6500億円)を調達した。
また、中国の飲料チェーン蜜雪氷城(ミーシュエ・グループ)も3月初旬に香港で上場し、34億5000万香港ドル(約630億円)を調達。同社の株価は上場初日に43.2%急騰し、時価総額は141億ドル(約2兆円)に到達。創業者であるビリオネア兄弟の資産はそれぞれ56億ドル(約8000億円)を超えていた。
さらに2月には同社と競合する飲料チェーンの古茗(グッドミー)が香港市場で18億香港ドル(約330億円)を調達して上場し、創業者の王雲安がビリオネアになっていた。