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2025.05.25 11:15

三毛猫オスが希少の理由 120年来の謎に終止符

Getty Images

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三毛猫の雄が非常に珍しいことは、みなさんご存知のとおり。それには、三毛猫のオレンジ色の毛を生やす遺伝子が関係している。その遺伝子がX染色体にあるため、X染色体を2つ持つ雌には生えて、X染色体が1つしかない雄には生えない。そこまでは120年前にわかっていたのだが、その遺伝子がどれなのかはずっと不明だった。それを九州大学などによる研究グループが突き止めた。

ちょっとややこしい話になるが、これにはパズルを解くような面白さがある。ヒトと同じく猫の細胞の中には2つの性染色体がある。雄はX染色体とY染色体が1つずつセットになっていて、雌はX染色体が2つでセットになっている。そしてX染色体には、毛の色がオレンジ色か黒かを決める「オレンジ遺伝子」がある。

雄はX染色体が1つなので、オレンジか黒かのどちらかしかあり得ない。だがX染色体が2つある雌の場合、片方の染色体がオレンジ、もう片方が黒になる可能性があるので三毛猫やオレンジと黒のサビ猫が生まれる。

2つのX染色体のオレンジ遺伝子が別々の色になるのは、X染色体の片方を不活性化して、雄と同程度の遺伝子発現量になるようバランスを取っているためだ。これは、動物学者のメアリー・リヨンが1961年に提唱した「X染色体のランダム不活性化」という仮説にもとづく考え方だ。オレンジ遺伝子が活性化されると毛はオレンジになり、不活性化されると黒になるということだ。ところが、肝心なオレンジ遺伝子の正体は謎のままだった。

ARHGAP36遺伝子に欠失がある雄はオレンジに、同遺伝子の発現が弱い雌は三毛に、発現が強い雌は黒になる。グラフの赤い枠は、塩基の欠失部分の配列データの厚み、つまり発現の強さを示している。
ARHGAP36遺伝子に欠失がある雄はオレンジに、同遺伝子の発現が弱い雌は三毛に、発現が強い雌は黒になる。グラフの赤い枠は、塩基の欠失部分の配列データの厚み、つまり発現の強さを示している。

さてここで本題。九州大学、国立遺伝学研究所、国際基督教大学、東京大学、アニコム先進医療研究所、近畿大学による研究グループは、福岡市内の18匹の猫のDNAを解析したところ、オレンジ色の毛を持つ猫にだけ、X染色体のARHGAP36遺伝子に約5000個の塩基の欠失が見つかった。さらに50匹の猫を調べ、海外のデータも参照したところ、ARHGAP36遺伝子の塩基の欠失とオレンジの毛の有無が完全に一致した。このことは、X染色体のランダム不活性化仮説を裏付ける結果ともなった。

さらにオレンジ色の毛が生えている部分の皮膚の遺伝子を調べたところ、塩基の欠失でARHGAP36の発現が高まることで、メラニン色素の合成を行う遺伝子の働きが切り替わり、黒からオレンジに毛の色が変わることも示唆された。

ARHGAP36遺伝子の発現がメラニン合成遺伝子の発現に影響を与えている。
ARHGAP36遺伝子の発現がメラニン合成遺伝子の発現に影響を与えている。

しかしここで新たな疑問が生まれる。世界中のオレンジ色の毛を持つ猫に見られるARHGAP36遺伝子の塩基の欠失が、いつどのように起きたのかだ。研究グループは、古代の猫の絵やミイラを調べることで、その手がかりが掴めるかもしれないと話している。いつか謎の解明に向けて、三毛猫の探検隊が出動する日が来るかもしれない。

プレスリリース

文 = 金井哲夫

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