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2025.05.21 08:00

祖父の老後の蓄えから評価額1兆円へ、インド決済ユニコーン創業者が燃やす野望

Photo Illustration by Thomas Fuller/SOPA Images/LightRocket via Getty Images

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インドのフィンテック大手Razorpay(レーザーペイ)の共同創業者のハルシル・マトゥルが今から約10年前、大学時代の親友のシャシャンク・クマールとともに大手銀行にサービスを売り込み始めた際、厳しい交渉になるのは目に見えていた。

祖父が老後の蓄えを差し出す

当時23歳のマトゥルは、大学で機械工学の学位を取得したばかりで、金融分野の経験はなかった。「無名スタートアップの提案は、真剣に受け止めてもらえていないと感じていた」と、レーザーペイのCEOを務めるマトゥルは語る。

ふたりは100近い銀行に断られた結果、ようやく大手銀行のHDFCから良い返事がもらえたものの、当時のレートで約4万ドル(約580万円)相当の250万ルピー(約425万円。1ルピー=1.7円換算)の保証金を用意することが条件だった。すでに100万ルピー(約170万円)を会社の立ち上げに費やしていたふたりにはその金額を用意する余裕がなく、最終的にクマールの祖父が老後の蓄えの一部を差し出してくれた。「あの頃は、大変なことばかりだった」とマトゥルは振り返る。

その後10年間にわたり彼らは奮闘を続け、決済オプションを拡充し、国際送金やリアルタイム決済、デジタルバンキング、貸付サービス、店舗用のPOS端末などのサービスを次々に追加した。さらに、AIを活用した不正検知プラットフォームのThirdwatch(サードウォッチ)、給与・人事管理システムを手掛けるOpfin(オプフィン)、信用リスクを判断するTERA Finlabs(テラ・フィンラボズ)など、インド国内を中心に8社を買収した。

インド最大級の決済プラットフォームのひとつに

こうした取り組みが実を結び、バンガロールに本社を置くレーザーペイは、インド最大級の決済プラットフォームのひとつに成長し、国内のユニコーン企業上位100社のうち86社を顧客にしている。同社の2024年3月までの1年間の売上高は、前年比約10%増の250億ルピー(約425億円)に達した。

レーザーペイの評価額は、直近の2021年の資金調達ラウンドで75億ドル(約1兆円)とされていた。フォーブスは、最近の開示資料を基にマトゥルとクマールのそれぞれが、約10億ドル(約1450億円)の資産を持つビリオネアだと推定している。

インドの決済市場では現在、ペイパルやPayU(ペイユー)といった世界的な大手に加え、バンガロール拠点のPhonePe(フォーンピー)やCashfree Payments(キャッシュフリー・ペイメンツ)といった国内勢も参入し、競争が激化している。そんな中、レーザーペイは今後の5年以内にエンドユーザーを現状の3倍以上の10億人に増やし、売上高を840億ルピー(約1428億円)に引き上げる計画だ。

ハイデラバードの調査会社Mordor Intelligenceによると、インド決済市場における総取引額は、2025年度の推定37兆ドル(約5365兆円)から2031年度には76兆ドル(約1兆1020兆円)に達する見通しという。売上の70%以上をインド国内の加盟店からの決済手数料で得ているレーザーペイの2024年度の純利益は、前年の7300万ルピー(約1億2410万円)の約5倍にあたる、3億4000万ルピー(約5億7800万円)に増加していた。

東南アジアへの進出

今後のさらなる成長を見据えるレーザーペイは、東南アジアへの進出を加速させ、2030年までに同地域の売上高を全体の15%に引き上げる計画だ。同社はその初期の取り組みとして、2022年にマレーシアの決済会社Curlec(カルレック)を2000万ドル(約29億円)で買収した。

さらに今年3月にはシンガポールにオフィスを開設し、リアルタイム決済と越境取引に注力している。「インドだけでなく、東南アジアの企業と一緒に成長したい」と語るマトゥルは、今後の4年間でフィリピンやタイ、インドネシア、ベトナムへの進出も計画している。

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編集=上田裕資

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