健康

2025.05.19 07:15

高所恐怖症を治すには「慣れるよりVRで飛ぶ」

Getty Images

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高所恐怖症の緩和には高いところに慣れさせる手法がよくとられるが、それとはまったく別の方法が実証された。それは、自分で空を飛ぶこと。

情報通信研究機構(NICT)は、「自分は高いところから落ちても飛べるから大丈夫」だと「行動ベースの予測」をすることで高所恐怖症を緩和できると考え、仮想現実(VR)を使った実験を行った。高所恐怖症の人たちに参加してもらい、まずはVRヘッドセットを装着して仮想空間の地上300メートルにわたされた板の上を先端まで歩く「高所歩行タスク」を実行してもらう。恐怖のレベルは指の発汗量を示す皮膚伝導反応(SCR)と、11段階の主観的恐怖スコアのアンケート(SFS)で測定した。

次に参加者をランダムに2つのグループに分け、片方には自分でコントローラーを操作して地上5メートル以下の低空を7分間、自由に飛び回ってもらった(飛行群)。もう片方は飛行群が飛んでいる様子を録画した映像を見てもらった(コントロール群)。そして再び高所歩行タスクを行い、恐怖レベルを測定。

その結果、2回目の高所歩行タスクでは、コントロール群に比べて飛行群の恐怖レベルがSCR、SFSともに大きく下がっていた。同じ実験を別の参加者で2回行ったが、いずれも飛行群の恐怖度レベルが明らかに減少した。

さらに実験後のアンケートから、生理的恐怖の減少量を分析したところ、2回目の高所歩行タスクで「自分は飛べるから落下しても危険ではない」と感じた程度(安全予測スコア)が高い人ほど、SCRの減少量が大きいこともわかった。

現在、高所恐怖症の治療法は、安全な高い場所に何度も足を運び、高所イコール危険という記憶の結びつけを、「高所でも危険ではない」と学習することで弱めていく「恐怖消去」が主流だ。そのほかの恐怖症やPTSDの治療にもこのメカニズムが応用されているという。今回その効果が実証された「行動ベースの予測」は、長期的な効果などが確認されたなら、恐怖症の治療法に選択肢が増えることになる。VRなので自宅やクリニックでも治療が受けられるようになれば、その恩恵は大きいに違いない。

プレスリリース

文 = 金井哲夫

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