ディープフェイク音声を見抜くツールで知られるスタートアップPindrop(ピンドロップ)は2024年1月、ニューハンプシャー州で拡散されたジョー・バイデン前大統領の声が、民主党支持者に投票を思いとどまらせるための偽音声であると特定して、メディアの脚光を浴びた。
それから1年以上が経過した今、アトランタに拠点を置くピンドロップは、年間経常収益(ARR)が1億ドル(約145億円。1ドル=145円換算)を突破したと発表した。「彼らの成長は、ディープフェイク問題の緊急性と、テクノロジーの質の高さの両方を反映している」と、同社に出資するアンドリーセン・ホロウィッツのマーティン・カサドはフォーブスに語った。
米国大手銀行10行のうち、8行のコールセンターに導入
ピンドロップは、詐欺と個人情報の盗難に対抗するためのサービスを提供している。すでに米国の大手銀行10行のうち8行のコールセンターで導入されており、通話内容をスクリーニングし、不審な話し方のパターンを検出して詐欺師をあぶり出している。また、近年では医療分野や小売分野への進出も進めている。
声のなりすましへの対策は、かつては大きな市場ではなかった。ピンドロップがディープフェイク分野に参入したのは2017年で、2023年にOpenAIがChatGPTをリリースする前までは、全顧客ベースを通じて1カ月に1件しかディープフェイクの通話は検出されなかった。当時は、通話が詐欺と判定されると、スタッフがZoomに20人も集まって、通話内容を一緒に聞いて分析していたという。
しかし、2024年の年末には1顧客あたり1日平均7件の偽通話が検出されるようになった。CEOのヴィジャイ・バラスブラマニアンは、ディープフェイク関連の詐欺の試みは、2022年以降に111%増加したと明かした。
「我々が見つけたのは、ディープフェイク通話では最初の4〜5秒のうちに非常に多くの間違いが起き、それも特有のパターンがあるということだ。どのAIエンジンがそのミスを犯したかまで特定できる」と、バラスブラマニアンは語る。
ピンドロップは、2020年以降黒字を維持しており、昨年夏にはヘラクレス・キャピタルから1億ドル(約145億円)をデットファイナンス(借り入れ)で調達した。従業員数280人の同社の累計調達額は2億3500万ドル(約340億7500万円)を超えており、バラスブラマニアンによれば、これ以上の資金調達の予定はないという。