スタートアップの創業者は、自社のサービスを世の中に広めるため、日夜奔走している。創業者自ら、営業・開発・バックオフィス業務のみならず、従業員の採用や教育も同時に行いながら、5年、10年先を見越した経営戦略を立てる必要に迫られるからだ。事業を軌道に乗せるために欠かせない資本政策を、ビジネス経験豊富で幅広いネットワークをもつコンサルタントが親身になってサポートしてくれたらどれほど心強いか。そんなニーズに応えるサービスが、M&A worksのスタートアップ支援だ。室長の長田和憲に、同社の支援サービスについて語ってもらった。
スタートアップの経営者は、自社製品や自社サービスのプロフェッショナルではあるが、必ずしも経営のプロフェッショナルであるとは限らない。資本政策やバリュエーション(企業価値評価)に関する知見に乏しく、短期的な視点で動いた結果、窮地に陥ってしまうケースも少なくない。
「これまで数百人の経営者の方々と話をしましたが、皆さん同じような悩みをお持ちです。なので、こういった資本施策の相談役としての存在が非常に大事だと思います」
「日本のM&Aの常識を変えていく」をミッションにM&A仲介事業を主軸とするM&A worksは、「熾烈な競争環境のなかでチャレンジするスタートアップが、適切な準備をし適切なファイナンスを進めることによって、確実にグロースしていける環境づくりをサポートしたい」という思いから、2024年9月より、スタートアップ支援事業を新たに手がけている。
「日に日に競争環境が激化しているなか、スタートアップ企業が世界で戦っていくためには、以前にも増して、資金調達が重要になってきています。十分な資金があれば手もちのカードを強化し、成長を一気に加速することができます。つまり、会社が成長するための資金調達をいかに効率よく行うかがカギになるのです。そのためのカウンターパートとなって起業家の夢を実現したい。そんな使命感に駆られて、弊社のスタートアップ支援事業は立ち上がりました」
そう語るのは、同社スタートアップ支援室 室長の長田和憲(以下、長田)だ。

スタートアップの成長支援に対する想い
長田は、新卒で入社した証券会社で4年ほど勤めた後、資本政策に特化したコンサルティング会社へと転職。スタートアップ企業から、東証プライム上場企業に至るまで、幅広い企業に対する株価算定や資本政策、ストックオプション(以下、SO)設計に関わるコンサルティングを5年以上担当してきたベテランだ。なかでも長田がもっとも注力していたのが、スタートアップ企業の支援だった。
長田は、資本政策を通じて企業の成長を支援し、IPOに至るまで長いスパンで経営者に伴走することにやりがいを感じていた。経営者の熱い想いを形にする支援が自身の仕事の魅力だったが、節目ごとの支援だけでなく、もっと包括的な支援が必要だと考えるようになっていった。
「資本政策やSO設計のアドバイスだけではなく、資金調達や事業提携の手伝いをしてほしいというご相談も多かったです。その中で、例えば、スタートアップ企業とVC(ベンチャーキャピタル)や大企業との提携支援を進めたいと思っていましたが、結局その想いは実現しませんでした。また、M&Aの知識を学ぶためにM&A worksに参画した後でも、この想いは消えませんでした。最近ではそのような支援を行う企業も増えてきていますが、それを傍から見ていて、自分ならもっと良い提案ができるという想いが高まる一方でした。そこで、思い切ってスタートアップに特化した支援をしたいと代表に直談判し、私の想いを理解してもらい、この事業をスタートさせることができたのです」
一口にスタートアップ支援といってもさまざまではありますが、正直なところどこも似たり寄ったりの印象でした。ですが、M&A worksは、『Forbes JAPAN』を発行するメディアグループの一員。グループ会社のメリットを生かし、さまざまなネットワークを活用すれば、最終的に私の目指す包括的なスタートアップ支援も可能になると考えています」
目指すのはスタートアップと投資家がwin-winになれるコミュニティ
では、実際、スタートアップ支援室ではどのようなサービスを提供しているのだろうか。
「設立間もないスタートアップ企業はどこも“社長=会社”に近い状態であり、猫の手も借りたい忙しさ。ですが、平均年収の高いCFOを雇う余裕まではないのが実情です。AIが良い例ですが、スタートアップ企業は、従前に比べて熾烈な競争環境に置かれています。他社に飲み込まれないためにも、戦略的に、速やかに資金調達を実施し投資をしていくことが重要ですが、CFOが雇えなければ、社長が資金調達につきっきりになってしまいます。
一方で、本業の開発や営業も社長自らが行わなければならない。そんな時期に、資金調達だけに時間を費やすわけにはいかない。そのような悩みを抱える起業家たちの資本政策全般をサポートするのが、私たちのサービスです」
起業家自身が投資家との十分なネットワークや提携のアイデアをもっているケースは少ない。また、CFOを採用するだけの余裕もない。そのような、リソース不足、知識不足のなかで起業家が独自で資金調達をしようとすれば、本業の開発を一旦ストップして、投資家が集まるイベントに参加したり、ホームページ経由で5~60社の投資家にコンタクトしたりと、自身のかなりの時間をさかなければならない。創設期の起業家は多かれ少なかれこうした悩みを抱えているのではないか。更に加えると、日本国内におけるスタートアップの資本施策はまだまだ未成熟な部分も多い、と長田は語る。
「スタートアップの資金調達において、バリュエーションが高くなりすぎているが故に、事業が想定より成長しなかった場合に、次の調達が出来ないというケースが多い。これは、中長期的な視点で資本施策を考えられず、目の前の資金ばかりを考えてしまっているということ。そしてデットを含め、他の手段を合わせて検討できていないことが、大きな要因ではないかと思います。単純に多くの金額を集めることだけが資本施策の成功では決してない。これでは、せっかくの事業が伸び悩むことになりかねません」
支援室の業務は、スタートアップと投資家や銀行とのマッチングにとどまらず、バリュエーションや資本政策の立案、事業計画やピッチブックの作成支援、さらにはSO設計に関する相談、M&Aによるイグジット支援に至るまで、非常に多岐にわたる。ときには、目先の利益にとらわれず、大企業との連携を見据えたアイデア出しや、将来的な取引先候補の企業を紹介することもある。もちろん、出資やM&Aを検討している投資家や大企業に対して、成長ポテンシャルの高いスタートアップを紹介することも、重要な役割のひとつだ。
「私たちはM&A仲介を主軸に、Forbesのメディアネットワークや知見を生かせる立場にあります。これまで数百社と接点をもち、経営者のリアルな悩みに触れてきました。例えば、社長がエンジニア出身で技術力は高いが、資金調達の知識やリソースが不足している企業には、中立的な立場から親身にアドバイスし、投資家や人材交流が可能な企業をご紹介します。はじめて資金調達を行う企業には、投資家が求める視点を踏まえた準備を具体的に提案できます。さらに、なかなかコンタクトしづらい海外の投資家や、必要に応じて、専門家との連携や取引先の紹介も行っています。経営者の悩みを多角的に支援できることが、私たちの強みです。経営者の良き“壁打ち”相手として、頼りにしていただける存在でありたいと考えています」
最後に、長田に今後の展望を聞いた。
「『スタートアップに関することなら何でもM&A worksに相談すればいい』と広く周知されるのが目標です。起業家たちにとっては心強い“駆け込み寺”のような場所であり、大企業や投資家、CVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)にとっては、優良なスタートアップと効率よく出会える場所でもある。そんなコミュニティをつくるのが私の夢です。そこには、自身もイグジットした経験があり今度はベンチャー企業を育てる側に回りたい投資家や、さまざまな分野の専門家もいる。そんなコミュニティのなかから、世界で勝てるビジネスを生みだせたら理想的ですよね」
M&A works
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おさだ・かずのり◎明治大学を卒業後、丸三証券に入社。主に中小企業オーナーを対象とした資産運用の提案に従事。その後、プルータス・コンサルティングに転職し、スタートアップ企業から東証プライム上場企業に至るまで、幅広い企業に対する、株価算定や資本政策、SO設計に係るコンサルティングを行う。理念に共感しM&A worksに参画。現在はスタートアップ支援を専業に行う。