20年以上も前から、米国の当局者は日本に対して円を強くするよう働きかけてきた。しかし日本政府は、米政府がそのために米ドルを急落させるのもいとわないとまでは、まったく想定していなかった。
ドナルド・トランプ米大統領の2期目が始まってから3カ月、政権の貿易戦争、めちゃくちゃな政策、全般的な機能不全によって、投資家はドルから逃げ出している。「トランプ・トレード」は逆回転し、ドルは円やユーロに対して10%近く下落した。
さらにややこしいのは、この急落が意図的なものに見えることだ。トランプのチームは、為替レートが下落すれば関税の影響を相殺できると考えている。また、米連邦準備制度理事会(FRB)が利下げに動くとも期待している。
だが、世界の基軸通貨を毀損するトランプの取り組みがどれほど裏目に出ているか、数え上げればきりがない。株式市場や債券市場の混乱は世界的な「米国売り」を引き起こし、その動きは止まらなくなっている。
この混乱はまた、アジア2位の経済大国である日本の1年も予測できない形でかき乱している。一例を挙げれば、日本はトランプによる関税の影響で、景気後退(リセッション)と物価高(インフレ)が同時に進むスタグフレーションに陥るのではないかとの懸念も市場で浮上している。トランプ関税は日本の輸出需要を押し下げるととともに、世界的にインフレを加速させるとみられるからだ。
日本銀行が4月30日〜5月1日の金融政策決定会合で金利を据え置くと見込まれている背景にも、こうした事情がある。2年前に就任した植田和男総裁は、25年間おおむね続いてきたゼロ金利と量的緩和からの脱却を模索し、少しずつ実行に移してきた。
2024年7月、植田のチームは、政策金利を0.25%に引き上げることにどうにか成功した。今年1月には、17年ぶりの高水準となる0.5%に引き上げた。
しかし、トランプによるワンマン関税強化競争を受けて、日銀は今会合での利上げは見送ることになりそうだ。さらに今後、トランプによる中国への145%の課税、自動車や鉄鋼・アルミニウムへの25%の追加関税のあおりで、日本の金利は再びゼロに戻るかもしれない。ドルの急落による円高で日本企業の利益は大きな打撃を受けるおそれがあり、日経平均株価は今年12%近く下げている。