紀伊半島をほぼ1周する紀勢本線の初島駅に、世界で初めての3Dプリントによる駅舎が完成した。無人駅の小さな駅舎だが、基礎工事を含めた躯体工事が最終列車から始発までの6時間で完了するという快挙を成し遂げた。
建物の工事は、まず基礎を作ってからその上に躯体(壁や屋根などの建物本体)を組み立てる。鉄筋コンクリート製なら基礎工事は少なくとも2週間、躯体工事は2カ月ほどかかるのが普通だが、鉄道の駅舎の場合、列車が走っている間は工事ができない。最終から始発までのわずかな時間内しか作業ができないので、工期は長くなる。
紀伊半島の西海岸、和歌山県有田市初島町の初島駅は、1948年に建てられた木造駅舎が老朽化し、維持管理が難しくなったことから、日本初の3Dプリンター住宅メーカーとして2018年に創業したセレンディクスに新駅舎の建設が依頼された。

セレンディックスは自家用車ほどの値段で買える住宅の販売を目指して技術開発を重ねてきた。現在は10平方メートルの小型住宅「serendix10」と、50平方メートルの1LDK平屋住宅「serendix50」の販売を行っている。また、2024年にはJR西日本と業務提携を交わし、鉄道施設への技術応用も進めてきた。なにより、3Dプリント建設は工期が短い。serendix10は24時間で建設できるのが売りだ。

初島駅の駅舎は4つのパーツで構成されている。熊本県の立尾伝説が所有する建築用3Dプリンターでそれらを出力した後、鉄筋とコンクリートで補強した。製造に要した期間は7日間。これをトラックで現地に運び、3月25日の午後11時57分、最終列車が出た後に組立を開始した。

組立自体はトラックの入れ替えなどの時間も含めて約2時間。その後、運搬用金具の取り外しや固定作業などを行い、26日午前5時には作業を終了した。このあと、外構と内装、電気工事などを行い、7月ごろに供用を開始する予定だ。
1LDKのserendix50の価格が550万円ということだから、シンプルなこの駅舎の価格はもっと安いはずだ。セレンディックスはオープンイノベーションを掲げ、日本内外の80の企業と「水平分業」で住宅作りを進めている。そのため、日本の耐震基準など、世界各国の厳しい建築基準をクリアする技術がその製品に込められている。今後もさまざまな分野で3Dプリンターによる短工期・低コスト・高品質な建設ソリューションを提供していくとセレンディクス共同創業者でCOOの飯田國大氏は話している。