「多極化する世界」で日本はどうなる?
藤吉:そのトランプ氏は就任早々、国外からの不法移民と合成麻薬流入に対抗してメキシコ、カナダ、中国に対し高関税を課す大統領令に署名するなど、実際に分断の方向へと舵を切っています。今後、世界はどういう形で多極化していくんでしょうか。
阿部:大まかに言うと、3つの極ができると思います。ひとつはもちろんアメリカです。それから中国と日本を軸としたアジア。ヨーロッパも往年の活力はありませんが、歴史があるから残るでしょうね。やっぱりしたたかですから。
そうした中で日本はどうなるのか。僕は、この3つの極の間でサプライチェーンをつなぐ役割を果たせるのは日本だけじゃないかと考えているんです。世界が分断していてもそれぞれの極で日々の生活で必要なものはあるわけで、その細分化した需要に十分に応えるには、日本の多品種・少量・高品質製品の生産技術と人材が不可欠だからです。
藤吉:まさにトヨタのシステムですよね。以前、クラウンの発表会を取材に行ったら、クラウンだけで5種類ぐらい出てたんです。クラウンそのものの販売台数がそれほど伸びているわけではないんだけど、しっかりと儲けているんですよね。それはやっぱり顧客のニーズの多様化に応える多品種・少量・高品質製品の生産システムがなせる業ですよね。
阿部:日本人が最も得意とするところですよね。で、そこに新しい需要が生まれてくるのが中国を含むアジアです。
これは以前もお話しましたが、今、日本をのぞくアジア全体で年間所得35000ドル(約500万円)以上の富裕層は1.9億人いるんです(2020年のデータ)。これが今後のアジア圏の経済成長に伴い、2030年には実に6.5億人にまで膨れ上がる。これから生まれてくる”シン・富裕層”の旺盛で多様なニーズを満たすことができる”モノづくり”の基盤を残しているのは、世界で、日本だけなんです。
日本は世界中で”ヒンジ(蝶番)”になる
藤吉:「多極化時代のキーワード」にはやはり気候や環境が入ってきますか。
阿部:そこは無視できないでしょうね。例えばエネルギー効率がいい日本のエアコンの需要が世界的に高まってます。あのレベルのインバーターエアコンは、もはや欧米では作れません。だから三菱とかダイキンといった日本メーカーの世界シェアは25%近くになっています。
藤吉:日本のインフラも世界でニーズがありますよね。日立製作所などはIoTのプラットフォームである「ルマーダ」を基盤として、未来のモビリティ開発に力を入れていますね。たとえばイタリアのジェノバでは公共交通機関の利便性を高めるスマートモビリティサービスを提供しています。スマートシティを目標として、多様化するニーズに応える技術力があるから、世界中からオファーがある。
阿部:それはまさに、日本の技術があらゆる極で必要とされている実例ですね。
藤吉:住宅分野でも、日本ではあまり知られてませんが、住友林業とか積水ハウスとかが海外の住宅を高度化したり、都市政策に関わったりしている。日立とか住友林業ほど大きくなくても、目立たないけど世界中から求められる仕事をしている中小企業が日本には実はいっぱいあるんですよね。
阿部:そういう企業を見つけられたときは投資家冥利に尽きます。気候変動に対応した多極化時代の産業創造には、日本のモノづくりの人材と技術力が”ヒンジ(蝶番)”のような役割を果たすと思います。
モノを作るだけじゃなくて、そこに今ある最先端の技術を組み合わせることで、新たな価値を創造していく企業が、これから日本でドンドン生まれてくるんじゃないかと期待しています。